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広島地方裁判所尾道支部 昭和45年(ワ)130号 判決 1972年1月28日

原告

尾野雅行

ほか二名

被告

奥村鍛工株式会社

ほか三名

主文

被告奥村鍛工株式会社、同藤原友太郎は各自原告尾野雅行に対し金一、八〇〇万円、同尾野宏之、同尾野節江に対し各金二〇万円、および右各金員に対する昭和四三年三月二九日から支払ずみに至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告尾野宏之、同尾野節江の被告奥村鍛工株式会社、同藤原友太郎に対するその余の請求および原告らの被告砂田孝、同砂田順一に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告奥村鍛工株式会社、同藤原友太郎との間においては原告らに生じた費用の二分の一を同被告らの負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告砂田孝、同砂田順一との間においては全部原告らの負担とする。

この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告らは各自、原告尾野雅行に対し金一、八〇〇万円、同尾野宏之、同尾野節江に対し各金一〇〇万円、および右各金員に対する昭和四三年三月二九日から支払ずみに至る迄年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一  昭和四三年三月二八日三原市古浜町広島トヨペツト三原営業所前国道二号線で、右折しようとしていた被告砂田順一運転の普通乗用自動車に被告藤原友太郎運転の普通貨物自動車が追突し、その衝激で反対車道に進入した被告砂田順一運転の右自動車と折から反対車道を進行していた原告尾野雅行運転の軽乗用自動車が衝突し、これにより同原告は後頭部、頸部血腫、第七頸椎脱臼骨折、第六頸椎圧迫骨折、頸髄損傷の傷害を負つた。

二  右事故は右折の際に三〇メートル手前から右折の合図をしながらセンターラインに寄り、前後左右の安全を確めてから右折すべき注意義務を尽さず漫然と突然停止して右折しようとした被告砂田順一の過失と同被告運転の右自動車に追縦進行するに際し絶えず右自動車の動向を注視し、かつ安全な車間距離を保つて進行すべき注意義務を尽さず、九メートルの車間距離を置いたのみで進行した被告藤原友太郎の過失とが競合し本件事故を惹起させたものである。そして被告藤原友太郎運転の右自動車は被告奥村鍛工株式会社の保有するもので、当時同被告会社がその製品を広島市外の注文者に納入するため被告藤原友太郎に依頼してこれを運転させていたものであり、また被告砂田順一運転の右自動車は被告砂田孝の所有するもので、当時同被告が実弟の被告砂田順一に一時的に貸与していたものである。

よつて被告藤原友太郎、同砂田順一は民法七〇九条により、被告奥村鍛工株式会社同砂田孝は右加害自動車の運行供用者として自動車損害賠償保障法三条により、それぞれ本件事故による原告の次の損害を賠償すべき義務がある。

三  (一) 原告尾野雅行の損害

(1)  逸失利益 金一八六一万一、一〇九円

原告尾野雅行は前記傷害により昭和四三年三月二八日から同年九月一〇日迄三原市所在の土肥病院に、同月一一日から同四五年五月二五日迄岡山労災病院にそれぞれ入院して治療を受けたが、乳腺部以下完全麻痺および膀胱直腸傷害を遺し、(後遺症の障害等級は労災第一級に該当)終身看護を要する不具廃疾者となり、労働能力の全部を失つた。

同原告は本件事故当時満一八才(昭和二四年四月六日生)で、昭和四三年三月尾道工業高等学校電気科を卒業し、尾道造船株式会社で働いていた優秀な技術者であるので将来産業労働者の平均収入よりはるかに高額の収入を得ることは確実であつたが、満一九才から六一才迄の間少なくとも昭和四三年賃金構造基本統計調査報告に示された額の収入を得ることができるものというべく、その各年収入額の現価の合計額は金一八六一万一、一〇九円となるから原告は本件事故によつて右収入を失つた。

(2)  付添看護費 金六三一万八五〇円

同原告は前記後遺症のため生涯付添看護を要することとなつたものであるから一九才の男子の平均余命年数である五〇・九一年間毎年少なくとも二五万五、五〇〇円(一日七〇〇円)の付添費の出費を余儀なくされることになる。そこでこれよりホフマン方式により中間利息を控除するとその現在価は頭書金額のとおりである。

(3)  慰藉料 金三〇〇万円

原告尾野雅行はかねて志望していたとおり造船会社に就職することができ、希望に燃えて実習に励んでいたところ本件事故に遭い、前記のように二年五八日間の入院を要する重傷を負い、生涯歩行もできず、看護人の助力を得なければ生活できない状態となつた。その肉体的、精神的苦痛は多大なものがあるからこれらの苦痛を慰藉するに金三〇〇万円が必要である。

(二) 原告尾野宏之、同尾野節江の損害

(1)  慰藉料 各金一〇〇万円

原告尾野宏之、同尾野節江は同尾野雅行の父、母で、唯一人の子である雅行を前記のような身体障害者にされ、これによる精神的苦痛は筆舌に尽し難いものであるからこれに対する慰藉料として右原告ら各自につき金一〇〇万円が必要である。

四  よつて被告ら各自に対し、原告尾野雅行は前項(一)の各損害の合計金二七九二万一、九五九円から同原告が後遺症補償として受領した自動車損害賠償責任保険金六〇〇万円を控除した金二一九二万一、九五九円のうち金一八〇〇万円、原告尾野宏之、同尾野節江は各前項(二)の金一〇〇万円、およびそれぞれ右各金員に対する本件不法行為の日の翌日から支払ずみに至る迄民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

と述べ、被告砂田孝の抗弁事実を否認すると述べた。

被告奥村鍛工株式会社訴訟代理人およびその余の被告らは「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、

被告奥村鍛工株式会社は請求原因第一項中原告尾野雅行の受傷の部位は不知、その余の事実は認める。同第二項中被告奥村鍛工株式会社が被告藤原友太郎運転の普通貨物自動車の保有者であつたことは認めるが、本件事故当時被告藤原友太郎が被告奥村鍛工株式会社に依頼されて右自動車を運転し同被告会社のために運搬の仕事に従事していたことは否認する。被告奥村鍛工株式会社は従前から被告藤原友太郎との間で独立の運送契約を結び、右契約に基づき同被告は右被告会社の製品を自己の計算において運送事業をなしていたものであり、同会社は被告藤原友太郎に同会社保有の車両を使用することを許諾したことはなかつたものである。従つて本件事故当時被告奥村鍛工株式会社は右自動車を自己の運行の用に供していたものではない。同第三項中原告尾野雅行が昭和四三年三月尾道工業高等学校電気科を卒業し、尾道造船株式会社に就職していたことは認めるが、入院の事実およびその期間、後遺症の有無およびその程度は不知、損害の額はすべて争うと述べ、

被告藤原友太郎は原告ら主張の請求原因事実中損害の額を争い、その余の事実は認めると述べ、

被告砂田孝、同砂田順一は請求原因第一項の事実は認める、同第二項中被告砂田順一の過失の点は争う。同被告運転の普通乗用自動車が被告砂田孝の所有に属し、同被告がこれを被告砂田順一に貸与したことは否認する。右自動車の所有名義は被告砂田孝になつていたが、それは自動車セールスマンをしている被告砂田順一が勤務先の自動車会社から右自動車を購入するにあたり販売実績を上げるために実兄である被告砂田孝の名義を使用して買い受け、同被告名義をもつて登録したものに過ぎず、真実は被告砂田順一の所有に属するものである。また、被告砂田順一は右自動車を運転して右折すべく、本件事故現場の約四〇ないし五〇メートル手前で右折の合図をし、減速し、センターラインに沿つて時速約一五キロメートルで進行中右自動車後部左側部分を被告藤原友太郎運転の自動車に追突され、その弾みで右方向に押し出されてセンターラインを越え対向車の進路に入つたため本件事故となつたものであつて、被告砂田順一には何ら過失がなく、右事故は被告藤原友太郎の過失により惹起されたものである。損害の額は争うと述べ、

抗弁として、被告砂田孝は仮に同被告が被告砂田順一運転の自動車の運行供用者にあたるとしても、右のように本件事故は被告藤原友太郎の過失によるものであつて右自動車の運行につき被告砂田順一に運転上の過失がなく、かつ右自動車の構造上の欠陥又は機能の障害もなかつたものであると述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  原告主張の日にその主張の場所で、右折しようとしていた被告砂田順一運転の普通乗用自動車に被告藤原友太郎運転の普通貨物自動車が追突し、その衝激でセンターラインを越え反対車道に進入した被告砂田順一運転の右自動車と折から反対車道を進行していた原告尾野雅行運転の軽乗用自動車が衝突し、同原告が負傷したことは当事者間に争いがない。

二  被告藤原友太郎運転の右自動車が被告奥村鍛工株式会社の保有に属することは同被告の認めるところであるが右被告会社が右事故当時右自動車を運行の用に供していたことを争うのでまず右の点について判断するに、〔証拠略〕によれば、被告藤原友太郎は従業員二名と自動車二台を使用して木材業を営んでいたが、被告奥村鍛工株式会社の岡山工場ができた昭和四二年一〇月ごろから右木材業のかたわら同被告会社の依頼を受け自己所有の右自動車を用いて右工場の製品の運送に従事するようになつたこと、本件事故当日の前日夕刻右被告会社工場の工場長の職務を代行していた森沢功は広島市の注文先から製品納入の要請を受けたので被告藤原友太郎に広島市迄その運送を依頼し、同被告の使用人二人が運転してきた同被告所有の自動車二台に納入すべき荷の一部を積載したが、右製品の納入は注文者の強い要請で急を要するものであつたので、積残しの分を被告会社所有の貨物自動車で運ぶこととし、被告会社において積荷をしたうえ被告藤原友太郎にその運転を依頼し、これにより事故当日の午前三時ごろ同被告が右貨物自動車を運転して同被告方を出発し、広島市に赴く途中本件事故となつたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。以上認定のような被告藤原友太郎が被告会社所有の貨物自動車を運転した経緯に徴すれば、被告奥村鍛工株式会社は被告藤原友太郎運転の右自動車につき運行支配と運行利益を有していたものと認めるのが相当であるから、事故当時右自動車を運行の用に供していたものというべきである。

次に被告砂田孝が同砂田順一運転の普通乗用自動車の運行供用者にあたるかどうかにつき判断するに、右自動車が被告砂田孝の所有として登録されていることは同被告の認めるところである。しかしながら〔証拠略〕によれば、右自動車は自動車のセールスマンをしていた被告砂田順一が勤務先の自動車販売会社から所有権留保特約付割賦販売で買い受け、自ら登録税を負担し、かつ強制保険任意保険等も同被告において加入し、本件事故当日迄通勤等のため使用してきたものであるが、同被告名義で買い受けてもセールスマンとしての販売実績にはならないので、代金完済後に登録名義を変更するつもりで実兄で、当時同被告と別居していた被告砂田孝に無断で同被告名義を用いて買い受け、右のような登録をしたものであるから、右自動車は被告砂田順一において運行の用に供していたものというべきであり、単に登録簿上形式的に所有名義を有するに過ぎない被告砂田孝はその運行供用者にはあたらないといわなければならない。従つて同被告が運行供用者であることを前提とする同被告に対する本訴請求はその余の点を判断する迄もなく理由がない。

〔証拠略〕を綜合すれば、本件事故現場は東西に延びる幅員一二メートル、アスフアルト舗装、見とおし良好の道路で、事故現場の約四〇〇メートル西は信号機のある交差点となつていること、被告砂田順一は本件事故当時前記乗用自動車を運転して右道路を西進し、事故現場から約二〇〇メートル以上手前で先行する被告藤原友太郎運転の貨物自動車をその右側から時速五五キロないし六〇キロメートルで追抜き、事故現場附近で右折してその北側の道路沿いにある勤務先の会社に入るべく、除々に減速し、その約三〇メートル手前から右折の方向指示器をつけ、センターラインに沿つて約二〇メートル進行し、時速が約一〇キロメートルになつたところ、突如後方から被告藤原友太郎運転の自動車に追突され、前記のような事故となつたものであること、一方被告藤原友太郎は右貨物自動車を運転し、時速約五〇キロメートルで西進していたが、同被告運転の自動車を被告砂田順一運転の自動車が前記のような場所で、前記のような速度でもつて追抜いたので、右自動車が事故現場の西の交差点迄そのまま直進するものと考え、特に先行する右自動車の動向に注意を払わず、漫然自車をややセンターラインに寄せて右速度のまま進行したために被告砂田順一運転の右自動車が右折の方向指示器をつけ、センターライン寄りを減速しながら進行しているのに気づかず、その約九メートル直前に至つたとき発見し、慌ててハンドルを僅かに左に切つたが及ばず、自車の右前部を被告砂田順一運転の自動車の左後部に追突させたことが認められる。〔証拠略〕中右認定に反する供述部分は前記各証拠に照らして措信しない。

以上の事実によれば被告藤原友太郎に前方注視義務を怠つた過失があり、右過失が本件事故の原因となつたことは明白であるが、被告砂田順一としては右折に際してとるべき措置に何ら欠けるところがなかつたから過失はなかつたといわざるを得ない。

そして本件事故が被告砂田順一運転の右自動車の構造上の欠陥又は機能障害の有無とは無関係であつたことは右認定事実により明らかであるから、同被告は自動車損害賠償保障法三条ただし書により免責されることになる。

そうすると被告奥村鍛工株式会社は被告藤原友太郎運転の貨物自動車の運行供用者として、被告藤原友太郎は本件事故の直接の加害者としてそれぞれ本件事故によつて生じた原告らの次の損害を賠償すべき義務がある。

四  よつて以下損害の額について判断する。

(一)  原告尾野雅行の損害

(1)  逸失利益 金一、八五三万七、〇五二円

〔証拠略〕によれば、原告尾野雅行は本件事故により後頭部、頸頭血腫、第七頸推脱臼骨折、第六頸推圧迫骨折、頸髄損傷の重傷を負い、直ちに三原市所在土肥病院に入院し治療を受けたが、下半身完全麻痺、両上肢不完全麻痺等の症状は好転せず、昭和四三年九月一一日岡山労災病院に転院し、同四五年五月二五日迄同病院で四肢の機能訓練等の物理療法および椎弓切除、硬膜切開、骨移植の手術を受けたが、両下肢の自動運動の回復が得られないまま右症状は固定し、乳腺部位以下の下半身完全麻痺、両手指筋力減弱、直腸膀胱障害を遺し、(自賠責障害等級の第一級に該当する)終身労務に服することができない状態となつたから、同原告はその労働能力の全部を喪失したものといわざるを得ない。そして〔証拠略〕によれば、同原告は本件事故当時満一九才(昭和二四年四月六日生)の男子で、事故直前の昭和四三年三月尾道工業高等学校を卒業し、同月四日から尾道造船株式会社の工員として働き、一年間の試用期間を経て本採用されることになつていたこと、同会社の停年は満五六才であるが一年間再雇用されることになつていたことが認められるから、同原告は本件事故がなかつたならば引き続き五七才迄右会社で働き、その後は他に職を求めて六一才迄稼働し、相応の収入を得ることができたものと推認することができる。〔証拠略〕によれば、原告尾野雅行の本件事故当時における収入は残業手当の金五、〇〇〇円を含め一ケ月平均金二万八、〇〇〇円であつたに過ぎなかつたが、右会社(資本金六〇〇万円、従業員一、一〇〇名)では毎年四月労働組合との団体交渉で定期昇給を含むべースアツプが行なわれることになつているから同原告の将来の収入額を算出するにあたつて実質上の昇給分を考慮に入れるべきであると解すべきところ、右会社に同被告と同様の年令、学歴で同時に入社した同僚三名が、入社三年後である昭和四六年五月ないし七月迄の間に得た一ケ月あたりの平均収入額は最も少ない者でも基本給が金四万二、〇〇〇円余、残業手当等の諸手当を含めると金六万四、〇〇〇円余であり、また一九才で右会社に就職し一〇年の経験をもつ男子(二九才)の同時期における一ケ月の収入は残業手当等を加えると金八万円位(そのうち基本給は金五万四、〇〇〇円)となり、右の者らの収入は臨時給与を含めない毎月の収入だけでも(右の同僚は右当時金一二万五、〇〇〇円余の夏期手当を得ている)いずれも「政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準」に示された昭和四三年における臨時給与を含む男子の年令別給与額の表、(同表は労働省労働統計調査部発表の昭和四三年賃金構造基本統計調査報告をもとに作成されたもので収入は四〇才迄は毎年増加し、四一才から四九才迄の間は増減なく、五〇才以降は毎年減少している)中当該年令の者の収入額を上廻るものであるから右会社での毎年の昇給額に名目賃金の上昇に過ぎないいわゆるベースアツプが含まれていることを考慮に入れても同原告の将来の収入額を右基準に依拠して算定することが過大に失するものとはいえないと考える。しかしながら本件事故時における同原告の収入は前記のように金二万八、〇〇〇円であり、同原告が二二才になる迄の間右の額を上廻る収入を挙げ得たことは必ずしも明らかではないから、同原告の一九才から二一才迄の三年間は右と同額の収入を得るものとみる外ない。そこで以上により同原告の一九才から六一才迄の各年令別収入額を別表収入欄各記載のとおりとし、その額からホフマン方式により年五分の中間利息を控除しその現価を求めるとその額は同表の現価欄各記載のとおりであり、その合計金一、八五三万七、〇五二円が原告尾野雅行の失つた損害である。

(2)  付添看護料 金四五〇万七、七五〇円

原告尾野雅行の受傷および後遺症の程度は前記のとおりであり、〔証拠略〕によれば、原告尾野雅行は車椅子に自力で乗り降りすることが困難で、母の手を借りなければならず、また膀胱、直腸障害により排尿・排便にも支障があり、独りで身の廻りを処理することが極めて困難な状況にあるため、母である原告尾野節江において入院時から今日迄原告尾野雅行に付添つて看護および身の廻りの世話をしているから、同原告は生涯(平均余命五〇・九一年)右のような付添看護を必要とするものと認められるところ、これに要する費用としては同原告の後遺症の程度および原告尾野節江において右看護のかたわら家事等の仕事に従事することも可能であること(同原告の右供述によれば事故前家でしていた内職を再び始めたいと考えていることが認められる)を考慮し、かつ計算の便宜上全期間を通じ平均すれば一日金五〇〇円程度と認めるのが相当であり、その合計額からホフマン方式により一年ごとに年五分の中間利息を控除して現価を求めるとその額は頭書のとおりとなる。

(3)  慰藉料 金三〇〇万円

原告尾野雅行が高等学校を卒業し、社会人として生活を始めた矢先に本件事故に遭い、二年二ケ月近い入院生活の末終身看護を要する身体障害者となつたことは前認定のとおりであり、これにより同原告が多大の精神的、肉体的苦痛を受けたことは明らかである。よつて治療の経過、受傷および後遺症の程度、その他本件審理に現れた一切の事情を考慮するとき本件事故による慰藉料額として同原告の主張する金三〇〇万円は相当と認める。

(二)  原告尾野宏之、同尾野節江の損害

慰藉料 各金二〇万円

〔証拠略〕によれば、同原告らは原告尾野雅行の父、母であることが認められるところ、本件事故により父母として同原告が死亡したことにも比肩しうべき精神的苦痛を受けたことは前記傷害の程度により明らかであるから本件事故により父母としての慰藉料請求権を有するものというべく、その額は諸般の事情を考慮し原告尾野宏之同尾野節江につき各金二〇万円をもつて相当と認める。

三  そうすると原告らの本訴請求は被告奥村鍛工株式会社、同藤原友太郎に対し原告尾野雅行につき以上の損害の合計金二、六〇四万四、八〇二円から同原告が後遺症保償として受領したと自陳する自動車損害賠償責任保険金六〇〇万円を控除した残金二、〇〇四万四、八〇二円の内金一、八〇〇万円、原告尾野宏之、同尾野節江につき各金二〇万円、および右各金員に対する本件不法行為の後である昭和四三年三月二九日から右支払ずみに至る迄民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容すべきであるが、同被告らに対する原告尾野宏之、同尾野節江のその余の請求および被告砂田孝、同砂田順一に対する原告らの請求は失当として棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野村利夫)

別表

<省略>

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